マイヒストリー①
第一章
〜突然の別れ〜
まだ暑く
セミの声が常に聞こえていた高1の夏。
それは突然やってきた。
薄暗い病室の入り口近くに立っていた私の肩を
伯母が抱き、体をさすりながら涙声で言った。
「辛い思いさせてごめんね。
もうすぐ楽になるからね…」
15歳の私にもその意味ははっきりわかった。
「もうすぐ楽になる」
お腹が痛くて薬を飲んだ後の「回復」を待つ言葉。
ではなかった。
初めて知った…言葉にそんな使い方があるのだと。
それを彼女の母親の口から聞く…
心臓を何度も切られるのではなく、
たった一言が、脳の核心を刺す。
何かないのか、どうにかならないのか、
どういう状況なのか…
忙しく何かの望みを必死に探す私の思考は、
その言葉で働きを止めた。
「彼女は死ぬ」
生きている彼女の体を目の前に、
突きつけられる現実は。真逆だった。
自分の子供の命に対して1パーセントも
望まないはずのその言葉を。
母親が口にしなければならない現実。
ショックだった。
私の肩を抱く伯母の手のひらから、
温かい体温とは別の、絶望という
冷たく力のない温度ばかりが体に伝わる。
霹靂のような一言に…
私は伯母の顔を見れなかった。
彼女を見つめながら泣いたのか
呆然としていたのか、
今となっては全く覚えていない。
彼女とは物心がつく前から一緒だった。
気づいたらいつも一緒にいた。
今もむくれた二人が並ぶ写真が残る。
水面に戻る時に鼻から水が入ってむせては笑い。
酔った大人の真似をしながら笑い…
大笑いする彼女ばかり。
彼女との最後の会話だった気がする。
翌日2時過ぎ…静まり返った真夜中。
すぐに両親と車で向かった。
足底の反射反応を見ては喜び、
それがぬか喜びだと知る一喜一憂を繰り返す。
望みと絶望の狭間で
それでも周りの大人の言葉を信じる以外、
私には脳がなかった。
そう言ったから…そう言っていたから…大丈夫…
ほら、テレビ見よ、
まだ一緒にやってないこといっぱいあるよ。
いっぱい約束したよね。
また明後日ねって、言ったよね。
明後日とっくに過ぎたよ?
なんで目開けないの?
なんで喋らないの?
真夜中の病室に大勢のすすり泣きの中に、
親がこの世を離れようとする我が子の名前を
泣き叫ぶ慟哭の後ろで無情に響き渡る…
わからない…何もわからない…
意味がわからない…
なんなのかわからない…
混乱し、でも冷静に傍観した。
泣き叫ぶ術もわからなかった。
感情の出し方もわからなかった。
その場にいたみんなが
自分を立たせるだけで必死だった。
同じく一人で立ち尽くしたまま
ただ頭の中は真っ白だった。
そんなことは全く何の関係もなく。
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